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33 〜交差点〜

今日も、いつも通りスクランブル交差点を会社に向かって歩く。

黒色の人ごみをかき分け、足早に歩く、顔のないロボット達。

まぁ、自分もそんな奴らと同じ。

「何のために働いてんだろう?」

最近毎日思う。

同じことの繰り返し、上司には顎で使われ、後輩達には馬鹿にされ。

何の役に立つのか分からない書類を作り続ける毎日

「何のために生きてるんだろう・・・」

これと言って趣味もないし、夢もない。

「生きてる意味あるのか?」

33歳冬。人生このままでいいのか?

同じ毎日

最近、やることもないし、一人、家に帰っては動画サイトを開いたり、

SNSで形上”友達"と言われる人たちの投稿を見る日々。

みんな結婚してたり、子供がいたり、恋人がいたり、バリバリ働いてる。

「いいねぇ、幸せそうで、俺なんて恋人もいねぇし」

みんなそれぞれ色んな事情があるんだろうけど、なんかどうしても

「自分なんか・・・自分なんて・・・」

とついつい自分中心に考えてしまう。

いやだなぁ。

 

「よし、呑みにでも行くか」

重い腰を上げ、行きつけのワインバーに今日も一人で行く。

眩しい。窓から差し込む光。

「あったま痛てぇ・・・飲み過ぎたかな・・」

インスタントのみそ汁を飲み家を出る。

今日もいつも通り、同じ。

同じ時間に、同じ道を歩いて、同じ仕事をして、同じ時間に会社を出る。

 

今日もあの交差点。いつもの交差点。

 

しかし交差点の調度真ん中で

 

再会してしまった。

まるで、暗闇に差し込む、木漏れ日。

眩しくて、でも、柔らかく暖かい。

「やぁ!」

平然を装って、挨拶をする

「久しぶり」

少し微笑んだ。

 

ずっとずっと好きだった。叶わなかった恋。

なんだこの感じ。

いつまでたってもガキだな自分。

でもそんな自分も嫌いじゃない。

「時間ある?いっぱいどう?」

ワインバーに今日は二人。

 

「5年ぶり?」

「うん」

何年経っても変わらない。

「まだ、やってんの?」

「うん」

恥ずかしそうに、でも自信に満ちたその笑顔が眩しく見えた。

夢に向かって歩いてるんだ。

 

恥ずかしい・・・

「(何やってんだ俺・・・)」

「ねぇ、まだ、続けてんの?」

「?」

「あれ!!」

 

シャボン玉が弾けるように

何かが弾けた。

 

「ハハハ」

突然笑いがこみ上げてきた

「?」

不思議そうにこっちを向く君。

「なんでもない」

笑いながら答える。

 

忘れてた。

自分にも夢とかあったんだ。

まぁ仕事に出来るとかそんなんじゃないけど。

 

ただただ忙しく、同じ毎日を過ごすなか、

趣味なんてないって忘れてた。

「何も見えていなかったんだな」

「?」

 

「またあえる?」

素っ気ないふりして聞いてみた

 

「ごめん。来週ニューヨークに立つんだ。勉強しに」

「・・・そうなんだ」

「うん」

「頑張ってね」

「うん」

笑顔の君。

ワインバーを出て、交差点で別れた。

 

「じゃあね」

笑顔が眩しい

叶わぬ恋・・・

 

やっぱり好きだ。

 

「(ありがとう)」

心で言った。

 

なんか大切なことを思い出させてくれた気がした。

いつもと同じ朝

いつもの交差点

 

「あっ朧雲」

 

ビルの狭間からみえる空

「春だな」

 

空なんて気にしたことなかった

 

何が変わったとかじゃない

けど

いつもの空が違って見える

 

「そっかおんなじ空なんてないよな」

 

この空の下

生きてる

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